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ぱんせどフランセ

思いつくまま、たまに仕事のことなども。

福祉の現場に生きる人たちへのインタビューをもとに書いた
ルポルタージュ「日々を織る」も連載しています。
囲いを打ち破る。Vol.14 |「日々を織る」
0

     

    ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

     

    Person 2  北井陽子さん

     

    囲いを打ち破る。

     

     人というものを好きになれる仕事

     人と関わろうと決めて

     福祉の世界へと導いた一冊の本

     理想と現実のギャップ

     理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

     保護者の胸の内

     信頼を育てる

     一緒にゆっくり歩むという支援の姿

     垣根の存在

     内と外、二重の垣根

    ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

    ⅻ 子ども達と利用者達との出会い

    xiii 垣根のない子どもの心

    xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

     

     

     

    2016年から北井さんは、「たんぽぽの家」を後任者へ渡し、

    生活介護事業所「こすもす」の管理者を務めている。

    利用者は、重度の知的障害者か、

    知的障害と身体障害の両方がある重複障害者で、

    症状の進行を防いだり、生活訓練を行う施設だ。

     

    利用者のほとんどは

    言葉によるコミュニケーションに障害がある。

    言葉で伝えることに障害があるから

    ダイレクトに行動で、意思や要求を示すことが少なくない。

     

    「いきなり手をひっぱったり、

     モノをひっくり返したり、投げたり。

     それだけ見ると乱暴な行動にもとれますけど、

     それは、嫌だと思っているとか

     不満があるとかを伝える方法で、

     時には、こっちのリアクションが

     その人にとっては、自分に注意を向けて

     かまっていることの確認にもなってるんだと思います」

     

    胸の内には次から次へと思いが溢れ出してくるのに

    それをうまく言葉で伝えられない時の歯痒さ。

     

    「痛いこととか、嫌なことをされると

     誰もが、確実に反応するでしょう。

     だから、ちょっと乱暴なことをするのは

     相手からの反応を確実に引き出せる

     コミュニケーションの1つなのかもしれませんね」

     

    いわば、ちょっとした攻撃も自分の意思を伝えて通す

    1つのボディランゲージというところなのかもしれない。

     

    「ここでは、そんなことをしなくても大丈夫、

     そんなことをしなくても、ゆっくりゆっくり、

     分かり合っていけますよ、ということをね、

     まあ、簡単ではないですけども、伝えていきたいです。

     

     たとえ、言葉でのコミュニケーションに不自由があったとしても、

     人に不快な思いをさせるという

     社会人として、してはいけないことは、しない。

     そういうことも、伝え方には十分な注意が必要ですけど、

     投げ出さず、ちゃんと伝え続けて。

     

     そして、人と人との信頼関係を育てていけたら、

     きっと、一緒に何かをしていくことが、できると思うんです」

     

    あのリズム体操の発表会で

    利用者とダンスを楽しんだ小学生のように

    一緒に何かをしながら、相手の気もちを汲み取って、

    受け入れて、そこからお互いの気もちを分かち合って

    ともに表現する。

    そういうことが、できるのではないか。

     

    「それが、この施設の中だけでなく、

     地域の中でもできたら、嬉しいですよね」

     

    遠い道程であることは否めない。

    けれど、子ども達が見せてくれた

    やわらかで、素直な心が、

    障害者が地域の中で、隔てなく、

    何気なく一緒に過ごす場面を見ることができるという、

    遥か遠くに広がるビジョンを一筋の光で照らしてくれている。

     

     

                    <囲いを打ち破る|終>

     

     

                次回は、コラム|普段着の福祉(仮題)

     

     

    協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

     

    hihi wo oru

     

     

    JUGEMテーマ:社会福祉

    | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:22 | comments(0) | trackbacks(0) |
    囲いを打ち破る。Vol.13 |「日々を織る」
    0

       

      ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

       

      Person 2  北井陽子さん

       

      囲いを打ち破る。

       

       人というものを好きになれる仕事

       人と関わろうと決めて

       福祉の世界へと導いた一冊の本

       理想と現実のギャップ

       理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

       保護者の胸の内

       信頼を育てる

       一緒にゆっくり歩むという支援の姿

       垣根の存在

       内と外、二重の垣根

      ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

      ⅻ 子ども達と利用者達との出会い

      xiii 垣根のない子どもの心

      xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

       

       

       

      顔を覚え、名前を覚え、

      一緒に何かをしながらお互いを知り合うことで

      垣根が消えていく。

      人と人とがつきあう上での、ごく自然なことは

      障害のあるなしに関わりないのだということを

      子ども達の姿が、あらためて教えてくれた。

       

      全校児童と施設の利用者とが継続的に交流をする

      プロジェクトの突端となった

      最初の4年生のクラスの施設見学。

      教師の提案で、児童と施設利用者との交流を深めるために

      短期間に数度の訪問を行ったのだが、

      この先生からは、もう一歩進んだ提案があった。

      それは、ただ、施設を訪れるだけでなく、

      児童と利用者が一緒に、何かをしようというものだった。

       

      最初は、仕事場に子ども達が押し寄せることを

      受け入れてくれた利用者へのお礼に、

      4回の短期集中訪問の最後に

      児童が体育祭で行ったパフォーマンス、

      音楽に合わせたリズム体操のようなものを

      披露するということだった。

      でも、せっかくの機会だから

      利用者も参加する形にしてはどうかということになり

      子ども達が先生になった。

       

      利用者と子ども、一人ずつのペアを組み

      子ども達が振り付けを教え始めた。

      それぞれ練習を繰り返し

      利用者たちも振り付けを覚えていった。

      そんな中、一向に練習が進まないペアがあった。

       

      そのペアの利用者が、もともと体を動かしたり

      踊ったりをするのが好きな人で

      音楽が鳴り始めると、勝手に体が動きだす。

      子どもの振り付けよりも先に

      音楽に乗って、自由に踊り始めるのだった。

      一所懸命伝えようとする子どもと

      音楽に乗って自由に動く利用者の姿。

      北井さんたち大人が、どうしたものかと思っていた時、

      子どもが教師のところにやってきて、こう言った。

       

      「先生、あの人、楽しそうやし、

       別に、自由に踊ってもらってもいい?

       振り付けどおり、うまく踊ることじゃなくて

       皆で、一緒に楽しく踊るのが目的なんでしょ。

       そしたら、別に、むりやり、

       振り付けどおりにしてって言わんでも、いいやんね」

       

      それを傍らで聞いていた北井さんの胸に

      驚きと喜びが広がった。

       

      「その子は、ペアになった利用者と

      楽しさを分かち合ってたんですね。

      自分の型にはめないで一緒に楽しんでた。

      子どもの柔らかさって、すごいですね」

       

      障害者に対して「やってあげるって、違うよね」という

      言葉が生まれる根源には、

      この、柔らかな心があったのだ。

       

      たしかに、私たちは、友だちといる時、

      お互い、相手に対して自分のやり方を

      一方的に押しつけたりしない。

      たとえ親友でも、性格も考え方も、好みもクセも違う。

      その時、友だちを自分の型にはめようとは思わない。

      お互いを尊重しながら、一緒に過ごすし、一緒に何かをする。

      この子どもは、そういう、友だちとのつきあいを

      利用者との間に結んでいたのだ。

       

      「施設に来た時から、構えることなく

       子ども達の変わっていく姿に、何よりも

       一緒にいることの大切さをに教えられました」

       

      目の前にいる人を素直に受け入れる。

      この子どもの心の柔らかさは、

      少しでも隔ての無い地域をという北井さんの思いが

      手の届く将来にあると勇気づけてくれた。

       

           

                次回  xiv 地域の中へと、垣根のない道を へ

       

       

      協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

       

      hihi wo oru

       

       

      JUGEMテーマ:社会福祉

      | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 08:02 | comments(0) | trackbacks(0) |
      囲いを打ち破る。Vol.12|「日々を織る」
      0

         

        ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

         

        Person 2  北井陽子さん

         

        囲いを打ち破る。

         

         人というものを好きになれる仕事

         人と関わろうと決めて

         福祉の世界へと導いた一冊の本

         理想と現実のギャップ

         理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

         保護者の胸の内

         信頼を育てる

         一緒にゆっくり歩むという支援の姿

         垣根の存在

         内と外、二重の垣根

        ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

        ⅻ 子ども達と利用者達との出会い

        xiii 垣根のない子どもの心

        xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

         

         

         

        ものごとの転機は人との出会いとともに

        訪れるものなのかもしれない。

        この小学校教師と一緒に始めたプロジェクトは、

        福祉施設は垣根に囲まれた特別な場所ではなく

        地域のひとつの場所であるという

        福祉の姿の実現への、小さな、けれど

        確かな手応えを感じることのできる一歩になった。

         

        施設の利用者と子ども達との交流プロジェクトは

        児童の人権学習の一環という位置づけで

        全校的な取り組みとなった。

         

        プロジェクトの発端となったクラスが4年生だったので

        その小学校の児童は4年生の時に、2か月の間に4回、

        子ども達が「たんぽぽの家」に来たり、

        利用者たちが学校を訪れたりと、集中的に交流する。

        さらに、年に一度、施設の利用者が

        学校を訪れて子ども達と交流する。

        子ども達は、小学校に入学してから卒業までの

        6年間に「たんぽぽの家」の利用者と

        継続的に触れ合う機会を持つというわけだ。

         

        翌年、プロジェクトの突端となった子ども達が

        5年生になった年。

        新たな4年生の施設見学と同時に、

        初めての、全学年の生徒との一斉交流の機会が設けられた。

         

        特に何かを教えるわけでもなく

        障害者と出会い、働く姿を知り、触れ合う。

        そういった体験から子ども達は何を受けとめたのか。

        その、全学年の生徒との一斉交流会が開かれた後、

        感想発表会での子ども達の発言が教えてくれた。

         

        「やってあげるって、違うよな、という言葉が

         子どもの口から出てきたんです。

         私たちから、何も示唆していないんですよ。

         それが、6年生でなくて、5年生が言ったんです。

         その時の6年生は、短期集中の施設訪問がなかったので

         全校一斉の交流会で障害者と始めて触れ合ったんですね」

         

        5年生と6年生。

        小学校のこの時期、1学年の差は、学力体力面で

        比較的大きな違いがあるといえるだろう。

        それが、この一斉交流の感想発表に際しては

        5年生の方がより活発で内容が濃かった。

         

        施設を何度も訪れた子ども達にとって

        顔や名前を覚えた利用者は

        やってあげるのでも、やってもらうのでもない

        フラットな相手になっていた。

         

        「頭での知識じゃなくて、実際に接して、

         人と、人としての付き合いをすることで

         子どもたちは、ノーマライゼーションだの何だのという

         理屈を、すーっと越えていってたんですね」

         

        子ども達は、何度も顔を合わせていくうちに

        自ずと変わっていったのだ。

        すこし乱暴な言い方かもしれないが、

        結局は慣れることに尽きるのかもしれない。

        知らないから怖い。

        知らないから偏見や思い込みも生まれる。

        思えばこれは、

        何も障害者との付き合いに限ったことではない。

        人が誰かと出会い、知り合い、

        分かり合っていく過程そのものに言えることだ。

         

        何度も顔を合わせていくことで

        子ども達が、利用者と自分との間にある障害を

        どんな風に受け入れていったかを語る

        こんなエピソードがある。

         

             

                      次回   xiii 垣根のない子どもの心  へ

         

         

        協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

         

        hihi wo oru

         

         

        JUGEMテーマ:社会福祉

        | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:51 | comments(0) | trackbacks(0) |
        囲いを打ち破る。Vol.11 |「日々を織る」
        0

           

          ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

           

          Person 2  北井陽子さん

           

          囲いを打ち破る。

           

           人というものを好きになれる仕事

           人と関わろうと決めて

           福祉の世界へと導いた一冊の本

           理想と現実のギャップ

           理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

           保護者の胸の内

           信頼を育てる

           一緒にゆっくり歩むという支援の姿

           垣根の存在

           内と外、二重の垣根

          ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

          ⅻ 子ども達と利用者達との出会い

          xiii 垣根のない子どもの心

          xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

           

           

           

          障害者の保護者の心のどこかにある

          うちの子は違うからという、遠慮にも似た思い。

          嫌な思い、辛い思いをしないようにと

          懸命に守る両腕が

          障害者本人を外に広がる世界からの

          ソフトな隔てにもなっている。

           

          障害者の暮らしを

          垣根で囲んだ特別な場所に置き去りにしない

          隔てのない地域にしたい。

          福祉の専門性も経験もない私が

          障害のある人たちとともに過ごせたら、

          それが、隔てのない地域が実現可能であることの

          実証になるんじゃないか。

           

          結婚し、子育てをし、暮らしの根を

          地域にしっかりと下ろした30歳頃の北井さんが、

          地域の授産施設「たんぽぽの家」に

          再就職を決めた動機である

          その思いを果たすには、

          2つの方向への働きが必要だった。

           

          施設の外の、地域に向かって

          障害者が暮らし、働き、活動する福祉施設は

          特別な場所ではない、地域のひとつの場所だと

          伝えることと、

          うちの子は違うからという

          保護者たちの心が生む垣根を外していくという

          A・Bサイドでの変化を起こしていくことだ。

          どちらか一方では、きっとうまくいかない。

          両サイドのバランスがあってこそ

          垣根が外れたフラットな繋がりが続いていく。

           

          さあ、どうするか。

          何しろ、北井さんがしようとしていることは

          人の心を変えていくことと言ってもいい。

           

          コミュニケーションを続ける。

          障害者と保護者と地域の人とが

          出会い、かかわり合う場や機会を設ける。

          人と人を結んでいくことに近道はない。

          諦めず、粘り強く、

          一つずつひとつずつ、出来ることを続けていた時

          ある出会いがあった。

           

          地域の小学校から施設見学の申し込みがあった。

          半年程前、道で出会った子ども達が

          逃げろ、逃げろと声を上げながら走り去っては

          近寄ってくるということをゲームのように繰り返し、

          利用者たちをからかったことで

          北井さんが連絡をいれた小学校の教師だった。

           

          電話口から聞こえる教師の声に、言葉に、

          子ども達を施設見学に連れて行くことへの

          真剣さのようなものを感じ取った。

          北井さんは快く受け入れ、施設見学の日を迎えた。

           

          施設を見学する子ども達の態度は

          課外授業で社会見学に訪れている生徒たちという

          真剣に勉強をしている姿だった。

           

          半年前のことがあったから

          子ども達の指導のために連れてきたのかと思い

          それとなく聞いてみたら、

          その教師は、半年前の一件を知らなかった。

          教職員全体で共有し、対応を考えるほどのこととしては

          扱われていなかったのだ。

          起こったことの受けとめ方への温度差を感じた。

          これが、今から理解を求めてコミュニケーションを

          続けていく先なのだと胸に刻んだ。

           

          自分が行こうとする道程の遠さを思った時、

          「この1回だけでなく、継続して伺って

           子ども達を皆さんと交流させたいのですが

           可能でしょうか」

          教師からそう提案があった。

           

          1度の施設訪問は、社会見学でこんな場所に

          行ったという体験と、その記憶に留まる。

          けど、継続して訪れることで

          そこにいる人たちの顔を覚え、名前を覚えれば、

          それは人との出会いの記憶になる。

          障害者の暮らしを知るということは

          一人ひとりの人の顔を知るということから始まる。

          そういうことではないだろうか。

           

          北井さんは、願ってもないことと受け入れ、

          子ども達と利用者との交流が始まった。

           

               

                      次回   ⅻ 子ども達と利用者達との出会い へ

           

           

          協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

           

          hihi wo oru

           

           

          JUGEMテーマ:社会福祉

          | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
          囲いを打ち破る。Vol.10 |「日々を織る」
          0

            ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

             

            Person 2  北井陽子さん

             

            囲いを打ち破る。

             

             人というものを好きになれる仕事

             人と関わろうと決めて

             福祉の世界へと導いた一冊の本

             理想と現実のギャップ

             理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

             保護者の胸の内

             信頼を育てる

             一緒にゆっくり歩むという支援の姿

             垣根の存在

             内と外、二重の垣根

            ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

            ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

            xiii 垣根のない子どもの心

            xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

             

             

             

            北井さんや職員たちの顔も覚えてもらい

            地域からの受注も増えるなど、

            「たんぽぽの家」が、地域に受け入れられたと思った

            矢先のことだ。

             

            北井さんと数人の利用者たちは

            リハビリとレクリエーションを兼ねた打楽器演奏の

            練習場へと徒歩で向かっていた。

            その道中、出会った子ども達が

            「わー、逃げろ、逃げろー」と口々に声をあげて

            鬼ごっこの鬼から逃げるように走り出した。

            遠ざかったと思ったら、近寄ってきて、

            囃し立てながら、また駆けていくということを

            ゲームのように繰り返した。

             

            「これは、やり過ごしてはいけないと

             その場で子ども達を叱りました。

             子ども達の学校が分かったので

             施設に戻ってから学校に連絡して事情を話し

             子どもさん達を叱ったこともお伝えしました」

            電話を受けた教職員の、分かりました、

            たしかにお聞きしました、という言葉で

            この一件は終わった。

             

            子どもというのは、驚くほどの観察力で

            自分たちの周囲を、大人を見ている。

            ようやく地域に受け入れらてきたと思った矢先の

            この出来事は、北井さんに

            地域の中に、人の心の中に潜んでいる

            隔ての存在を教えるものだった。

             

            隔ての存在を認め、その存在を境に

            地域を障害者にとっての向こう側の世界と喩えるなら、

            障害者にとってのこちら側の世界からつくる隔てもある。

            それは、障害者の保護者の、子どもを守りたいという思いだ。

             

            その日、「たんぽぽの家」は、

            地域のイベントに模擬店を出していた。

            そこへ遊びに来た「たんぽぽの家」の利用者が、

            模擬店で売っていたビールを注文して飲もうとした。

            すると付き添っていた保護者が、やめさせた。

            「昼間から、障害者が酒を飲んでる姿なんて、みっともない」

             

            昼日中、外でビールを飲んでいる姿は、

            その利用者の保護者の中にある

            健気で愛される障害者像から外れていた。

            周りの皆さんによく思われなければ、生き辛くなる。

            そんな世間への遠慮に似た気もちが垣間見えた。

             

            その子どもを守りたいという親心に胸が詰まった。

            それと同時に、強い疑問が湧き上がった。

            休日にリラックスして、昼のグラス一杯のビールを楽しむ。

            そんなちょっとした、非日常の楽しみ方を

            なぜ障害者はしてはいけないのか。

             

            真面目で純粋で控え目。

            そんな障害者像を、いつ、誰がつくったのか。

            狡い部分、嫌みな部分、そんな人間味は

            障害者だって持っている。

            いや、人間味と呼ばれる心の動きや欲求に、

            障害のあるなしは関係ない。

             

            そんな当然のことを当然とせず

            周囲の人に愛される、健気で真面目な姿で生きることを

            教え、求めることで子どもを守ろうとする親心。

            愛情ゆえの、それもまた

            ひとつのソフトな隔離ではないだろうかと北井さんは思う。

             

            内側からのこの塀を取り払うには

            それを取り払っても安全な環境を整えるほかない。

            完璧な安全をつくることは不可能だろうが

            少しでも安全な通路を地域のなかに整えていくことはできる。

            そう信じる心が、北井さんを次の一歩へと歩ませた。

             

                 

                        次回  ⅺひとつの出会い、垣根を破る突端

             

                 ※「囲いを打ち破る」の次回更新は、

                   年末年始を挟んで、1/11日です。

                   

             

            協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

             

            hihi wo oru

             

             

            JUGEMテーマ:社会福祉

            | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:55 | comments(0) | trackbacks(0) |
            囲いを打ち破る。Vol.9 |「日々を織る」
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              ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

               

              Person 2  北井陽子さん

               

              囲いを打ち破る。

               

               人というものを好きになれる仕事

               人と関わろうと決めて

               福祉の世界へと導いた一冊の本

               理想と現実のギャップ

               理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

               保護者の胸の内

               信頼を育てる

               一緒にゆっくり歩むという支援の姿

               垣根の存在

               内と外、二重の垣根

              ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

              ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

              xiii 垣根のない子どもの心

              xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

               

               

               

              障害者ができるかぎり地域と繋がって暮らしていく。

              家庭と施設の外の世界、

              より多様な場で人と関わって生きていく。

              「たんぽぽの家」は授産施設ではあるが

              賃金を得るために仕事をするためだけの場ではなく、

              他の人たちと一緒に働くという経験を通じて

              地域社会と繋がっていく機会そのものだ。

               

              休憩時間の散歩や施設見学の受けいれ

              イベントでの地域の人たちとの交流と、

              様々な形で、いろいろな人と触れ合う機会を

              積極的に設けている。

              そして北井さんは、その交流の中で

              地域との垣根を感じ取り、それを打ち破る道を探り続ける。

              では、まず、そこに、どんな垣根があったのか。

               

              北井さんが「たんぽぽの家」で仕事を始めて間もなく

              地域の小学校から、施設見学の申し込みがあった。

              明日、そちらに見学に行きたいということだった。

               

              「今日、電話をかけてきて、明日見学をと言うのがねえ、

               その時、失礼だなとは思ったんです。

               もし、うちが一般企業だったら

               地域にある他の会社だったら

               そんな申し込みの仕方をするだろうかと。

               今日電話して、明日行きますなんて、

               当然、承諾するだろうという調子でね。

               他の会社にだったら、まず、受け入れが可能かとか、

               都合のいい日程とか、そういうのを訊ねるところから

               始まると思うんですけどねえ」

               

              小学生が施設を見学に行くのは、

              障害者理解のための教育だ。

              協力して当然だろう。

              電話口から聞こえてくる声に

              そういう腹の底が見え隠れした。

              けど、そんなことに引っかかっているよりも

              子ども達と障害者が触れ合う機会を優先しようと受けいれた。

               

              そして、翌日、見学に来た子ども達は

              物珍しさに興奮したのか、施設の中を駆け回った。

              なかでも勢いのいい2、3人の子どもは、

              重度障害者が横たわって作業をしている

              折りたたみ式のサマーベッド(ボンボンベッド)に

              上ってピョンピョン飛び跳ねはじめた。

              作業所の中を走り回るだけでも十分に仕事の邪魔だ。

              ましてや、椅子に座っての作業が厳しいからと

              体を横たえて手を動かしているベッドの上で

              飛び跳ねられたら、仕事ができるはずもない。

               

              よしんば仕事中でなくても、

              たとえばプールサイドのサマーベッドで

              寛いでいる見知らぬ人がいたとする。

              自分が引率している児童が、そのベッドに上って

              飛び跳ねはじめたら教師はどうしただろう。

              急いで注意をして詫び、

              子どもにもごめんなさいと言わせるだろう。

               

              けどその時、引率してきた教師は

              ひと言の注意もせずに子ども達を好きにさせていた。

              これが一般企業なら、と北井さんはまた思った。

              きっと教師は、仕事の邪魔をしないよう、

              迷惑をかけないようにと

              前もって子ども達に言い聞かせておき

              当日、見学現場でも、きちんと指導するだろう。

               

              何故か。

              障害者の授産施設がれっきとした職場であるという

              認識がなかったからではないだろうか。

              もし、自分が授業をしている教室で

              誰かがこんな行いをしたら、いったいどうしていただろう。

              どう考えても理不尽だ。

               

              「その一件があって、施設見学の申し入れをいただいても

               どこか、こちらを見下げていると感じるところがあれば

               お断りするようにしました」

               

              その後、また別の教師との出会いで

              北井さんは子どもの可能性の素晴らしさに触れ、

              施設見学受け容れに積極的になった。

               

              「拒絶するよりも、施設見学の前に

               先生方に留意していただきたい点を伝えるなど

               コミュニケーションを図りさえすれば

               子ども達の経験の機会を届けられると

               固くなってしまった頭をほぐすことができました」

               

              この、北井さんの心をほぐした出会いの話はまた後ほど。

              障害者を取り囲む隔たりを垣間みるエピソードを

              もう少し、話そうと思う。

               

               

                                     次回 内と外、二重の垣根 へ

               

               

              協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

               

              hihi wo oru

               

               

              JUGEMテーマ:社会福祉

              | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
              囲いを打ち破る。Vol.8 |「日々を織る」
              0

                 

                ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                 

                Person 2  北井陽子さん

                 

                囲いを打ち破る。

                 

                 人というものを好きになれる仕事

                 人と関わろうと決めて

                 福祉の世界へと導いた一冊の本

                 理想と現実のギャップ

                 理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                 保護者の胸の内

                 信頼を育てる

                 一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                 垣根の存在

                 内と外、二重の垣根

                ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                xiii 垣根のない子どもの心

                xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                 

                 

                 

                時間がかかっても、うまくできなくても

                やってくださいと人に頼まず

                自分で作業をやり遂げたい。

                もとから、そういう利用者にとっては、

                自分でできることは自分でするという

                傍らで気長に見守られる支援スタイルへの

                変化は喜ばしいことだった。

                 

                反対に、今まで上手に甘えていた利用者、

                すぐに、やってくださいと頼っていた人にとっては

                不本意な変化だった。

                不満そうな様子で、やってくれそうな職員を探した。

                しかし、職員の間で

                自分でできることは自分ですることで

                自立を促すという方針の統一がなされていた。

                どの職員に頼んでも、反応は同じだった。

                 

                今まで聞き入れられていたことを拒絶される。

                そう、利用者にとっては、まさしく拒絶だ。

                それまでは、むしろ頼らない利用者よりも

                上手に甘えて頼る利用者の方が

                かまわれ、大事に遇されていたのに、

                打って変わった職員の態度に

                困惑や苛立ちを感じることは

                火を見るよりも明らかだった。

                 

                「その人達にとっては依頼するということが、

                 ずっと、コミュニケーションの一つだったんですよね」

                 

                人と関わる機会が少ない。

                それが知的障害者の否めない現実だろう。

                だから、頼むということで

                職員との関わりが生まれることが楽しかった。

                利用者の苛立ち、不満は、

                人との関わりのきっかけを奪われたことへの

                やるせなさなのだ。

                 

                北井さんは、依頼という呼びかけへの

                応え方を変えた。

                 

                「その代わりに、“待つ” “励ます"という

                 コミュニケーションを続けました」

                 

                やってくださいと依頼された時、

                傍らに寄り添い、励ます。

                 

                ああ、惜しかったね。

                あと少しで、できるとこだったね。

                もうちょっと、がんばってみようか。

                そこそこ、そうそう、ああ、できた、できた。

                よかった、よかった。

                じゃあ、次は、これもやってみようか。

                大丈夫、それができたんだから、これもきっと、できるよ。

                 

                一緒にがっかりしたり、悔しがったり、喜んだり。

                声をかけ続け、顔を見合わせ、

                私はあなたと一緒にいますということを伝える。

                そうして少しずつ、

                できることを増やすためのチャレンジを一緒に続けていく。

                 

                自分のしていることは、ほんとうに

                利用者本人にとっていいことだと言い切れるか、

                そう言い切るためには、どうすればいいか、

                考えながらの一歩一歩だった。

                はっきりとした言葉でのコミュニケーションがない分

                相手の表情をよく見て、気もちを汲み取りながら

                無理強いのないように、ゆっくり、ゆっくり、

                根気よく続けた。

                 

                そして「結果オーライ」でしたと、北井さんは明るく笑った。

                「やっぱり、自分でできるというのは、いいんですよね。

                 一所懸命にやって、できた時の笑顔から、

                 できた!という達成感が伝わってくるんです」

                 

                その達成感には、職員と自分との、

                人と人との関わりへの信頼もあったのではないか。

                 

                やってください、やってあげましょう、の関係から、

                自分でできるように、最大限の自立に向かって

                一緒に、一歩一歩を重ねていくフラットな関係。

                職員、保護者、そして利用者本人の意識が変わった。

                その場その場の親切というソフトな隔離が、

                見えない垣根が、少しずつ取り除かれ始めた。

                 

                さあ、地域との垣根を打ち破る時が来た。

                 

                 

                                           次回   垣根の存在  へ

                 

                 

                協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                 

                hihi wo oru

                 

                 

                JUGEMテーマ:社会福祉

                | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
                囲いを打ち破る。Vol.7 |「日々を織る」
                0

                   

                  ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                   

                  Person 2  北井陽子さん

                   

                  囲いを打ち破る。

                   

                   人というものを好きになれる仕事

                   人と関わろうと決めて

                   福祉の世界へと導いた一冊の本

                   理想と現実のギャップ

                   理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                   保護者の胸の内

                   信頼を育てる

                   一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                   垣根の存在

                   内と外、二重の垣根

                  ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                  ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                  xiii 垣根のない子どもの心

                  xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                   

                   

                   

                  重度障害者の保護者になるほど、施設の職員が

                  “うちの子にどれくらい関わってくれているか”

                  “どれだけ大事にしてくれているか”の期待が大きくなる。

                  自分たち障害者の保護者で運営している施設だ。

                  その根源には、自分たちの子どものためにという願いがあって

                  障害が重度になればなるほど、その思いも強くなる。

                   

                  たとえ時間がかかっても

                  障害者が自分自身でできることを

                  一つずつ増やしていく、少しずつ伸ばしていく。

                  職員は、上手くできないことを代わりに行う存在ではなく、

                  上手くできないことを、どうすればできるようになるかを

                  障害者と一緒に考え、工夫していく相手。

                  そうやって、人と人が関わっていく。

                  それまでの、やってください、やってあげましょうの

                  スタイルから、大きく方向を変えた支援のあり方。

                  その変化を、どうやって保護者に受け容れてもらうか。

                   

                  「行事で、自分たちのしていることを見ていただきました。

                   自分でできることは自分でしてもらう。

                   何でもすぐに手を貸さないことで、

                   自分でする習慣をつけて、できることを増やしていく。

                   そうして自立を促す支援のやり方を、行事で

                   保護者の皆さんに、その目で見ていただきました」

                   

                  理屈では分かっても、障害のある子どもを預けている

                  保護者の心情となれば、すんなりとは受け容れ難いだろう。

                  うまくできずに四苦八苦している我が子を手助けせず、

                  ただ傍らにいる職員の姿に、なぜ助けないのかと

                  苛立ちや不満を感じても無理はない。

                   

                  「親御さん、保護者さんには、最初、

                   ほったらかしにしているように見えたと思います。

                   目に見えた介護や介助の方が、

                   かまってもらっているという実感があるでしょう」

                   

                  だからこそ、あえて、行事を機会に

                  その支援のあり方を披露目した。

                  保護者たちの目の前でも、目の届かないところでも

                  同じやり方を徹底していることが大切だった。

                  これが、私たちが信じる支援のあり方ですと、

                  その目で確かめてもらう必要があった。

                  それが、北井さんが信じる支援のあり方を伝える基盤だった。

                   

                  「そして、コミュニケーションを続けました。

                   まず、私という人間を信じてもらうことが必要でした」

                   

                  必要があれば、時間を割いて、保護者とのきめ細やかな

                  コミュニケーションをはかった。

                  北井さんという人間は信頼できる。

                  あの人なら大丈夫、任せられる。

                  あの人が信じる支援のあり方なら、信じて大丈夫。

                  そう思ってもらえるまで、ただただ、

                  一貫した自分たちの支援のあり方を見てもらい、

                  疑問に答えるということを続けた。

                   

                  さらに、過介護や過介助を避ける一方で

                  利用者の送迎を始めた。

                  通所が楽になれば、利用者と保護者の負担が軽減し、

                  利用者の勤務の機会が増えていく。

                  自立を促す支援の目に見える行動だった。

                   

                  それに、北井さん達には、何よりも雄弁な味方があった。

                  利用者達の笑顔だ。

                   

                  「迎えに行った時、利用者さんが待ってたよという、

                   嬉しそうな笑顔で車に乗り込んでくれはる。

                   これ以上に、親御さんに安心してもらえることは

                   ないんですよ」

                   

                  自立する喜び、働く楽しさを得た利用者の笑顔。

                   

                  やってください、やってあげましょう、という

                  今までのスタイルから、

                  自分でできることは、自分で、というスタイルへと。

                  ある意味厳しさを伴う、支援のあり方の変化の中で

                  利用者たちのその笑顔は

                  どのように生まれていったのだろうか。

                   

                   

                     次回「 一緒にゆっくり歩むという支援の姿」へ

                   

                   

                  協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                   

                  hihi wo oru

                   

                  JUGEMテーマ:社会福祉

                  | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
                  囲いを打ち破る。Vol.6 |「日々を織る」
                  0

                     

                    ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                     

                    Person 2  北井陽子さん

                     

                    囲いを打ち破る。

                     

                     人というものを好きになれる仕事

                     人と関わろうと決めて

                     福祉の世界へと導いた一冊の本

                     理想と現実のギャップ

                     理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                     保護者の胸の内

                     信頼を育てる

                     一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                     垣根の存在

                     内と外、二重の垣根

                    ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                    ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                    xiii 垣根のない子どもの心

                    xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                     

                     

                     

                    時にぶつかり合いながらも、

                    北井さんは職員達の理解と共感を得ていった。

                    人と関わることを仕事にする。

                    それは、まず、思いを共にする

                    仲間を作っていくということから始まった。

                     

                    利用者が自分でできることを少しずつ増やしていく。

                    人の手を借りずにできる作業の範疇を広げることは

                    労働の対価を得る自立の力を高めていくことだ。

                    障害者が自らの労働で賃金を得るための

                    授産施設で働く自分たちの仕事は、そのための支援である。

                     

                    職員の意識が変わり、『たんぽぽの家』が

                    利用者に提供するサービスの質が変わっていった。

                    次は、利用者の保護者に、

                    その変化を受け容れてもらうことだった。

                     

                    「親心としては、無理もないことなんですけどね。

                     やっぱり、親御さんとしては、自分の子どもに

                     かまってもらいたいという思いがあるんです」

                     

                    北井さんが職員になった当時の『たんぽぽの家』は、

                    保護者が運営している施設だった。

                    公的な助成金を受けて

                    自分たちの子どものための施設を運営している。

                    そこにある自分たちの子どものためにという強い願いは、

                    時に、明確な権利意識に繋がっていた。

                     

                    自分たちの目の届かないところでも

                    きちんと世話をしてくれているのだろうか。

                    送迎時に、作業所の中を様子を覗き込んで、

                    垣間見たワンシーンに安堵を求める保護者の姿があった。

                     

                    保護者の案ずる心を語るこんなエピソードがある。

                    午前中、根を詰めた作業の息抜きにと、

                    北井さんは何人かの利用者と連れ立って散歩に出た。

                    その辺をぶらりと歩いて戻ってくると、

                    ガレージの物陰に隠れた保護者の姿を見つけた。

                     

                    「自分がいなくなってからも、私たち施設の人間が、

                     ちゃんとお子さんの世話をしているか心配で

                     確かめたかったんでしょうねえ」

                     

                    送迎時に作業所の中を伺い見るだけでは

                    充分、安心できなかったのだろう。

                    作業所のガレージに身を潜めて、自分の目が離れた後、

                    子どもがどんな待遇を受けているか覗き見ていたのだ。

                     

                    「心配のあまり、様子を見てはったんでしょうねえ。

                     ちょっとびっくりしましたけど、

                     親御さんとしては、それはそうだと思います。

                     言葉が出てこない、話ができない方のご家族の不安は

                     大きいと思います」

                     

                    利用者の家族に安心してもらうためにどうすればいいか。

                    この出来事で、北井さんは新たな課題を受け取った。

                     

                    利用者が自分の力でできることを増やしていく。

                    利用者の自立の可能性を広げていく。

                    そのための施設の取り組みを

                    保護者達に、知り、理解し、共有してもらうために

                    何をするか、どうするか。

                     

                    施設の職員の次は、利用者の保護者たち。

                    障害者と社会との隔てを取り去っていく福祉。

                    その実現ための小さな一歩を進めるために、

                    共感の輪を広げる挑みが始まった。

                     

                     

                                      次回「 信頼を育てる」へ

                                          ※ 次週 23日(木)勤労感謝の日は更新を休みます。

                     

                     

                     

                    協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                     

                    hihi wo oru

                     

                     

                    JUGEMテーマ:社会福祉

                    | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:58 | comments(0) | trackbacks(0) |
                    囲いを打ち破る。Vol.5 |「日々を織る」
                    0

                       

                      ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                       

                      Person 2  北井陽子さん

                       

                      囲いを打ち破る。

                       

                       人というものを好きになれる仕事

                       人と関わろうと決めて

                       福祉の世界へと導いた一冊の本

                       理想と現実のギャップ

                       理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                       保護者の胸の内

                       信頼を育てる

                       一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                       垣根の存在

                       内と外、二重の垣根

                      ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                      ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                      xiii 垣根のない子どもの心

                      xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                       

                       

                       

                      障害者と、介護のプロ。

                      やってくださいと依存し、やってあげることで満足する。

                      そこにあるのは、弱い者に対して強い者が

                      やってあげるという施しのように思えた。

                      ともに障害者の自立のために力を尽くすという

                      フラットな人間関係ではなかった。

                       

                      待つよりも、手を貸す方が、ある意味、楽だ。

                      うまくできない作業を失敗しながらやり続ける相手の

                      傍らに寄り添って、できるまで待つことは、

                      根気と辛抱がいる。

                      しかし、それこそが、人と関わるということだ。

                      田村一二氏の著書『忘れられた子ら』

                      北井さんはそう教えられた。

                       

                      「その人と関わるのではなくて、

                       その人にできないことをやってあげるというやり方には

                       どうしても受け容れ難い違和感がありました」

                       

                      人と、人、として関わることがないままなら、

                      それは結局、障害者の居場所に囲いを作る

                      ソフトな隔離ではないか。

                      北井さんの中にむくむくと闘志が湧き上がった。

                       

                      福祉への知識、現場での経験、

                      そして施設への貢献と

                      先輩であるヘルパーたちに敬意をはらい、

                      腰を低く、頭を低く下げながらも

                      北井さんは自分の信じる施設づくりに動いた。

                       

                      授産施設は、障害者が自ら労働し、賃金を得て

                      自立を目指すための施設である。

                      だから、自分たち職員の務めは

                      障害者自身が、自分の手で労働の対価を得るための

                      支援を行うことである。

                      障害者自身が、自分一人でできることを

                      増やしていくことである。

                      これからは、代わりに何かをしてあげる、という

                      考えや行動を改めてほしい。

                       

                      そういう自分の考えを、

                      これから『たんぽぽの家』が目指す姿を伝えるために、

                      方針を発表し、利用者支援の方法について提案した。

                      それは改革の宣言とも言えた。

                       

                      歳を重ねるごとに、不可抗力的に

                      目や耳の機能や筋力が衰えていく高齢者の介護と、

                      自立の象徴として賃金を得るために

                      施設に通う障害者の支援。

                      福祉という大きな括りのなかにあっても、

                      それぞれの意義は全く異なる。

                      意義が異なれば、提供するサービスは自ずと異なる。

                      自分たちの姿勢も改めるのは当然である。

                       

                      そう理解して、北井さんの提案を受けいれる人もいれば、

                      協力的ではなく、やがて施設を去っていく人もいた。

                       

                      福祉は、垣根に囲まれた向こう側の世界にあるのではなく

                      自分たちの普段の暮らしの中に、あたりまえにある。

                      専門性や経験を持たない自分が居られたら、

                      それを実証できる。

                      ここで、自分の違和感に目を背け、

                      囲いの中の常識に取り込まれることは、

                      ここに来た、その思いを放棄することになる。

                       

                      思いを共にしてくれる人と、

                      焦らず、一人、また一人と出会っていけばいい。

                      去る人の背中からも目を背けることなく、

                      北井さんは、自分が選んだ道へと、まず一歩踏み出した。

                       

                       

                                                次回 「 保護者の胸の内」へ

                       

                       

                      協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                       

                      hihi wo oru

                       

                       

                      JUGEMテーマ:社会福祉

                      | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:41 | comments(0) | trackbacks(0) |
                      囲いを打ち破る。Vol.4 |「日々を織る」
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                        ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                         

                        Person 2  北井陽子さん

                         

                        囲いを打ち破る。

                         

                         人というものを好きになれる仕事

                         人と関わろうと決めて

                         福祉の世界へと導いた一冊の本

                         理想と現実のギャップ

                         理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                         保護者の胸の内

                         信頼を育てる

                         一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                         垣根の存在

                         内と外、二重の垣根

                        ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                        ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                        xiii 垣根のない子どもの心

                        xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                         

                         

                         

                        障害があろうとなかろうと

                        人と人がフラットにつきあい暮らしている。

                        いざ、働き始めた施設は

                        北井さんが抱いていた、そんなイメージとはほど遠かった。

                         

                        施設のスタッフのほとんどが

                        高齢者介護のヘルパー経験者だった。

                        介護のプロと障害者。

                        そこにあるのは

                        世話をする人と、される人の姿だった。

                         

                        本来、障害者が仕事をして

                        自分で賃金を得ることを目的にした

                        障害者の自立を支援する施設であるはずなのに。

                        できない人と、やってあげる人という

                        人間関係が成立していることに

                        北井さんは違和を感じた。

                         

                        たとえば、ここに二人の利用者がいる。

                        一人は、頼むことに慣れている。

                        その気になって自分でやろうと思えば

                        自分の力でできるだろうことも

                        やってくださいと、ヘルパーに頼む。

                        何でもすぐに、ヘルパーに頼む人。

                         

                        もう一人は、なかなか頼まない人。

                        たとえ上手くいかなくても、手間取っても

                        自分でできることは、ヘルパーに頼むことをせずに

                        自分でしたい人。

                         

                        この両者を比べると、

                        前者の方が、ヘルパー達から好かれていた。

                        後者は、むしろ疎まれていた。

                        北井さんは、心に浮かぶ違和感を拭えなかった。

                         

                        「授産施設について専門性も経験もなかったですけど、

                         すごく矛盾を感じました。

                         何も難しいことを考えてそう思ったんじゃなくて、

                         自分と自分の友だちとの間で

                         やってください、やってあげましょうというような

                         人間関係はないなと」

                         

                        友だちとのフラットな関係において、

                        やってください、やってあげましょうという

                        感覚はない。

                        助けを必要とする友だちに力を貸す時は、

                        あくまでも友だち自身が何かをするために

                        自分の力が役立つように動くのであって、

                        友だちに代わって、やってあげることはない。

                         

                        北井さんは、疎まれながらも

                        最大限、自分でできることは自分でしたいという

                        意思を通す、後者の姿に共感を憶えた。

                         

                        しかし、ノーマライゼーションという考えが

                        今よりももっと共感や理解を得ていなかった時代、

                        経験者がそれまで行ってきた

                        何でもやってあげるというスタイルに

                        異論を唱えることは容易いことではなかった。

                         

                        北井さんが就職した時、『たんぽぽの家』は

                        開設から1年5か月経っていた。

                        その間、そのスタイルを続けてきた

                        経験豊富なパートタイムのヘルパーたちと

                        新しく入ってきた未経験の、しかも唯一の正職員。

                        関係は複雑だった。

                        ともすれば、何も分からない素人が

                        正社員というだけで、経験者のすることに

                        口を差し挟んでいると反感を生むだけに

                        終わるかもしれなかった。

                         

                         

                         次回 「 理想への第一歩、スタッフと思いを共有する」へ

                         

                         

                        協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                         

                        hihi wo oru

                         

                        JUGEMテーマ:社会福祉

                        | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:53 | comments(0) | trackbacks(0) |
                        囲いを打ち破る。Vol.3|「日々を織る」
                        0

                           

                          ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                           

                          Person 2  北井陽子さん

                           

                          囲いを打ち破る。

                           

                           人というものを好きになれる仕事

                           人と関わろうと決めて

                           福祉の世界へと導いた一冊の本

                           理想と現実のギャップ

                           理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                           保護者の胸の内

                           信頼を育てる

                           一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                           垣根の存在

                           内と外、二重の垣根

                          ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                          ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                          xiii 垣根のない子どもの心

                          xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                           

                           

                           

                          人と関わる仕事をと考えた北井さんの胸に

                          真っ先に浮かんだのは、

                          学生時代に読んだあの本「忘れられた子ら」だった。

                           

                          それまで障害児と接するどころか

                          会ったことすらなかった若い教師と

                          特別養護学級に集まった知的障害児達との

                          喜怒哀楽に満ちた日々。

                          嘘のない、真心で向き合うことで育まれていく信頼。

                          障害があろうがなかろうが

                          人と人が関わるということの本質は同じだと

                          青年時代に受けた感銘が甦った。

                           

                          そして、もう一つ、学生時代の小さな体験があった。

                          ある市の役所で事務仕事の

                          アルバイトをしていた時のこと。

                          車椅子の女性に頼まれて化粧室を使う介助をした。

                           

                          「化粧室にお連れして、

                           ちょっと手助けをしただけだったんですが、

                           とても感謝してくださって。

                           ほんの少しのことで、役に立てたということが

                           すごく嬉しかったんです」

                           

                          たった一度の細やかな出来事ではあったけれど

                          大学のゼミや本などで学び、感じていたことに

                          体温を与える体験だった。

                           

                          障害者福祉。

                          再就職は人と関わる仕事をと考え

                          学生時代のそんなことを振り返っていたちょうどその時、

                          北井さんは、地域の「授産施設・たんぽぽの家」が

                          職員を募集しているのを知った。

                          これだ、と思った。

                           

                          「障害者福祉について、経験も、専門性も、

                           それまで格別な思い入れもなかった自分が

                           そこで務まれば、

                           福祉の世界と、私の普段暮らしている世界には

                           垣根はないと分かるんじゃないかと思ったんです」

                           

                          障害という隔てをつくらず

                          誰もがフラットに暮らす環境を実現する。

                          障害者福祉というものは、隔ての向こう側の

                          隔離された世界にあるものではないという社会観。

                           

                          「自分が、その障害者福祉というものの場に居られたら、

                           そこは、塀で囲まれた別の世界ではないということを

                           証明できるんじゃないかと思ったんです」

                           

                          福祉は特別なところにあるものではない。

                          誰もが、どこからも排除や隔離をされることなく

                          あたりまえに存在するのが社会のあるべき姿である。

                          若い頃に出会った一冊の本

                          田村一二氏著「忘れられた子ら」から受け取った

                          福祉のあり方。

                           

                          福祉について専門性も経験も持たない

                          地域の一主婦である自分が

                          障害者福祉施設の支援員として務まれば、

                          学生時代に自分が学び、感銘を受けたその理論が

                          実現可能なほんとうのことだと

                          まず自分自身が納得でき、

                          周囲に向かって説得できる。

                           

                          北井さんは授産施設『たんぽぽの家』の職員募集に

                          応募し、採用された。

                           

                           

                                 次回「  理想と現実のギャップ」へ

                           

                           

                          協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                           

                          hihi wo oru

                           

                          JUGEMテーマ:社会福祉

                          | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 08:00 | comments(0) | trackbacks(0) |
                          囲いを打ち破る。Vol.2 |「日々を織る」
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                            ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                             

                            Person 2  北井陽子さん

                             

                            囲いを打ち破る。

                             

                             人というものを好きになれる仕事

                             人と関わろうと決めて

                             福祉の世界へと導いた一冊の本

                             理想と現実のギャップ

                             理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                             保護者の胸の内

                             信頼を育てる

                             一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                             垣根の存在

                             内と外、二重の垣根

                            ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                            ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                            xiii 垣根のない子どもの心

                            xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                             

                             

                             

                            教師になろうと教育学部で学んでいた北井さんはゼミで、

                            知的障害児の教育を行う「近江学園」の創設者

                            糸賀一雄氏の思想について学んだ。

                             

                            知的障害のある子ども達の福祉と教育に生涯を捧げ、

                            社会福祉の父とも呼ばれる

                            日本における社会福祉の実践家の思想を

                            若い感受性が吸収した。

                             

                            さらに、その

                            糸賀一雄氏に近江学園を創設するよう働きかけた

                            田村一二氏の講演を聴く機会に恵まれ、著書を読んだ。

                            それが、北井さんにとっての

                            障害者という存在との出会いだった。

                             

                            田村氏の著書「忘れられた子ら」は

                            今も北井さんの、とっておきの一冊だ。

                            そこに描かれている知的障害のある子ども達と、

                            田村氏自身がモデルとなった

                            若き男性教師の日常は、

                            なんとも愛とユーモアと切なさに溢れていた。

                             

                            まず、教師手ずから

                            子ども達の顔を洗い、髪を刈り、

                            歯を磨き、耳掃除をして

                            受け持った子たち全員の身なりを整え、

                            次に子ども達の使う

                            独特の言葉を覚えるところから始まり、

                            一人ひとりの個性を理解し、

                            読み書きそろばんを教え、

                            人としての道理を説いていく。

                             

                            その教師と子ども達の姿が

                            なんとも生き生きと描かれている。

                             

                            相手が障害児であとうとなかろうと、

                            良いことは良い、悪いことは悪い。

                            人への優しさ、思いやり、

                            ものの道理と善悪を曲げない。

                            その一点を貫いて、あとは

                            子ども達をのびのびと育てる姿に、

                            教育の原点を見るような物語だ。

                             

                            教師になろうと学んでいた北井さんは、

                            教師と子ども達のその興味深い物語を通して

                            障害者という存在に出会い、

                            障害者とともに暮らすということの

                            あり方を教えられた。

                             

                            若い教師と子ども達の

                            ハチャメチャで、てんやわんやで

                            けれど、この上なく愛情に溢れた物語は、

                            若い北井さんの胸に、

                            教師という仕事への期待を育てたに違いない。

                             

                            ところが、

                            「教育実習で小学校に行って、私、

                             自分のことを教師に向いていないと思ったんです」。

                            親に勧められて、自分は教師になるんだと疑うことなく

                            教育学部への進路をまっすぐ歩んできたけれど、

                            実際に、子ども達と接してみると

                            子どもに対する好き嫌いがあった。

                             

                            そんな自分の姿に気づいた北井さんは

                            なぜ、自分が教師になろうとしてきたのかを

                            あらためて見つめ直した。

                            そして、よくよく考えれば、

                            子どもが好きで、子ども達の教師になろうとしたわけでは

                            なかったという考えに至った。

                            親の勧めがなければ

                            選んでいなかった道かもしれなかった。 

                            「こんな自分が、このまま教師になったら、

                             子どもを不幸にする」

                            そう思った北井さんは、教師への道をすっぱりと捨てた。

                             

                            そればかりか、人の好き嫌いがある自分は、

                            人に関わらない方がいいかもしれないと、

                            IT関係の会社に就職した。

                            人と接することが少ないと選んだ職場だったが、

                            働きはじめて、いちばん楽しかったのは

                            お客さんからの問合せに答えたり

                            打合せをしたりという、人相手の業務だった。

                             

                            北井さんが対応したのは、

                            町の鉄工所の男性たちだった。

                            「町の工場のオッチャンたちと接している時が、

                             多少、ややこしいことがあっても苦にならず、楽しくて。

                             あれ、自分って意外と、

                             人と関わる仕事に向いていたかもしれない」と

                            あらてめて思ったのだった。

                             

                            そして、子育てにゆとりができて再就職をとなった時、

                            今度は、人と関わることそのものを仕事にと決めた。

                             

                             

                               次回「  福祉の世界へと導いた一冊の本」

                             

                             

                            協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                             

                            hihi wo oru

                             

                             

                            JUGEMテーマ:社会福祉

                            | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 07:51 | comments(0) | trackbacks(0) |
                            囲いを打ち破る。Vol.1|「日々を織る」
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                              ☆「日々を織る」福祉の現場に生きる人たちのルポルタージュ☆

                               

                              Person 2  北井陽子さん

                               

                              囲いを打ち破る。

                               

                               人というものを好きになれる仕事

                               人と関わろうと決めて

                               福祉の世界へと導いた一冊の本

                               理想と現実のギャップ

                               理想への第一歩、スタッフと思いを共有する

                               保護者の胸の内

                               信頼を育てる

                               一緒にゆっくり歩むという支援の姿

                               垣根の存在

                               内と外、二重の垣根

                              ⅺ ひとつの出会い、垣根を破る突端

                              ⅻ 子どもたちと利用者たちとの出会い

                              xiii 垣根のない子どもの心

                              xiv 地域の中へと、垣根のない道を  

                               

                               

                               

                              「この仕事を通して、

                               人というものを好きになれるよ」

                               

                              インタビューの終盤に、

                              若い人たちに、この仕事の魅力を伝えるとしたら

                              どんな言葉をおくりますかと訊ねたところ、

                              北井さんは、こう答えた。

                               

                              「どう言うんでしょうねえ。

                               日常の、人の営みの、些細なことに喜びを感じられる。

                               その繰り返しのなかで

                               人というものを好きになっていく。

                               言葉にするとしたら、

                               この仕事の魅力は、そういうものだと思います」

                               

                              福祉施設での支援の仕事は、

                              その人自身の内側で、そして、人と人との間で生じる、

                              人というものの喜怒哀楽、時にはエゴまでも含めて、

                              人というものの隠しきれない心のありように触れ、

                              人というものは、なんと、

                              おもしろくて、かわいくて、

                              どうしようもなくて、

                              いじらしくて、にくたらしくて、

                              愛おしいものなのかと、

                              そんな気もちを存分に味わう現場なのだろうと、

                              北井さんのその言葉の意味に近づこうと

                              インタビューを反芻し

                              受け取った言葉一つひとつを咀嚼するなかで

                              そんな思いに至った。

                               

                              北井陽子さん。

                              彼女が福祉施設での支援の仕事を始めたのは

                              30歳を迎えた頃だった。

                              子育てにすこし余裕ができて

                              再就職を考えていた時、

                              ちょうど、地域の『授産施設』が職員を募集していた。

                               

                              『授産施設』とは、

                              一般企業で勤めることが難しい心身障害者が

                              自立を目標に働き、賃金を受け取る施設だ。

                              福祉の『ふ』の字も知らなかった素人が、

                              いったいどうして、

                              障害者の自立を支援する施設で働こうと思ったのか。

                               

                              「もしも、私に、障害者支援の仕事が務まるなら、

                               それは、障害者の暮らしが

                               垣根の向こう側のことではないという

                               一つの証明になるんじゃないかな、と思ったんです」

                               

                              本来、人が暮らしを営むところすべてに

                              福祉というものは関わっている。

                              しかしながら、どういうわけか、

                              福祉という言葉に、人はつい、

                              垣根に囲まれた向こう側の

                              ちょっと特別な、自分とは遠い場所という

                              印象を持ってしまいがちだ。

                               

                              その垣根を

                              福祉の素人である自分が越えられたなら

                              福祉が特別な世界はないという証明ができる。

                              証明してみせたい。

                              だから、その世界に、

                              障害者の暮らしを支援する福祉の仕事に飛び込もうと

                              北井さんは決めた。

                               

                              障害者のいる場所を囲いの向こう側に置いておかない。

                              そのために行動する、立ち上がる。

                              北井さんを、そう奮い立たせたのは、

                              学生時代に出会った一冊の本が 

                              彼女の胸の奥底に植え付けた一粒の種だった。

                               

                              話は北井さんがその本に出会った学生の頃に遡る。

                               

                               

                               

                                     次回、「鮨佑抜悗錣蹐Δ鳩茲瓩董

                               

                               

                              協力:社会福祉法人 産經新聞厚生文化事業団

                               

                              hihi wo oru

                               

                               

                              JUGEMテーマ:社会福祉

                               

                               

                              | ☆ルポルタージュ「日々を織る」Person2 | 08:02 | comments(0) | trackbacks(0) |